来たる2020年12月21日「富士通アクセラレーター第9期採択企業発表会」が開催された。同イベントでは富士通のオープンイノベーションに携わる担当者が自身が経験した成功談・失敗談を華麗に披露した。
オープンイノベーションに携わる全ての事業会社にとってはこの上ないクリスマスプレゼントといって過言ではない。言うまでもないが、他社の巨額を投資して得た事例を自社に活かすことで、成功への近道をすることができるからだ。
同記事では、そんな富士通アクセラレーターサンタが提供する、事業会社のオープンイノベーション成功までのショートカット事例をご紹介する。
「しくりじり先生から得た知見で協業の呼吸を習得」
筆者は富士通を始め、丸紅、パナソニック、ヤマハ、EPSON、JCB、これまで多くの大企業と共にベンチャー投資、買収、新規事業立ち上げに関する仕事をご一緒してきたが、成功する大企業担当者の共通項は1つ。起業家の信念を信じてリスクをとれるかだと感じる。例えそれが彼らの出世に影響してもだ。
これに対し、スペースマーケットの重松社長は”大企業には必ず野武士の様なサムライがいる。彼らの様なキーマンと最適なタイミングで出会い口説く事が出来るかが、ベンチャー側にとって重要である”と主張する。
あらゆる大企業がベンチャーとの協業に失敗し、ベンチャーと競争する一方で、富士通が起業家の心を掴み、ベンチャーと共創を可能にする所以は他でもなく、担当者が出世街道から退く覚悟を兼ね備えているからだと深く感じる。
富士通アクセラレーターでベンチャーとの共創プロジェクトに携わる松尾氏はこれを、”万歳アタック”だと主張する。自分が推薦したベンチャーとの協業が失敗すると、間違いなく出世からは退くことになる。しかし、それらの覚悟がないと、起業家サイドも事業会社を信じられなくなり、大きな事を共に成し遂げられることはできない。令和の資本主義で生き抜くためには必要不可欠である。
富士通はこれまで約150社との協業検討と通じて、ベンチャー企業とのハードシングスを乗り越えてきた。第9期採択企業発表会にて披露された彼らが多数の協業で培った失敗談と成功談を交えたベンチャー企業との付き合い方を本稿で皆様へ共有する。
「競争から共創。想像を創造。」
大企業は、日頃スタートアップのようにリスクを取ってスピーディーに今までにないアイディアを形にする努力をしているケースが少ない。しかし、IP(知的財産)を沢山持っており、多くの顧客企業、信用、人やお金などのある程度のものを持っている。
一方で、スタートアップは、リスクが取れてスピードが非常に早い、尖ったアイディアがあり、どんどん新しいものを生み出していける。だが、人と金という視点では枯渇しており、直ぐ数字につながるような顧客基盤などを作っていく必要がある可能性がある。 お互いに持っているもの、持っていないものが明確になっているので、協業すればwin-winの関係が作れると、富士通株式会社 執行役員常務 CIO兼CDXO 福田氏は語る。
事業会社はスタートアップに、スタートアップは事業会社に。互いに何が足りず、どのように支え合うかを考え抜くことで、これまで同じ市場で競争していたプレイヤーが手を取り合い共創することができるのだろう。
「スタートアップは外国人と認識すること」
JR東日本スタートアップ株式会社 シニアマネージャー阿久津氏は、「スタートアップと大企業の文化の違いに尽きる」と発言している。大企業とスタートアップでは製品を作るスピード感、仕事の進め方、人数の掛け方も圧倒的に違う。大企業は時間や人をかけて安心安全で行うのに対して、スタートアップはリスクをとってスピード重視で物事を進められる。
ある時、富士通アクセラレーターの事業開発担当松尾氏が声を掛けたスタートアップ vs とある研究所の技術のどちらと連携するかで、社内で衝突することがあった。
採択に掛ける時間を減らしマーケットを直ぐ取るために、冷静に考えてどっちが良いか第三者機関に評価を依頼した。結果、スタートアップに良い評価が与えられ、人の感情ではなく客観的に見る事で、選択がスムーズに運んでいくケースがある。
同じような事業をしている企業の採択に迷った場合、どちらが良いかを客観的に判断することが肝である。
「マスコミを利用した第三者評価戦略」
協業の賛同を取り付けるのに、社内で情報を伝えていくのではなく、外のマスコミなどに報道してもらう逆輸入が効果的である。社内では色々な人の気持ちや捉え方が入り込むが、外部の人々やメディアが良いと言うと、みんながその意見に迎合するのが理由だ。
権威性のある人や、マスコミによってプラスの情報が流れると、それを嗅ぎつけた瞬間に、最初は協業にNOと言っていた人もYESの旗色に変わる。
「ベンチャー連携で重要なこと」
実績を見せないと、社内はその事業が成功するのか信用してくれない。「成功するので事業計画を承認してください」と提出しても、言葉では説得力に欠けて承認が貰えないケースが出る。それは、今までイノベーションの行動をしていない人は、安心安全を取る傾向にあるからである。
よって、「既にお客さんの数がこれだけみえます」と目に見える数値で表すことで、社内の人も1回考えるようになり、お客さんを味方にすることで事業が始まるきっかけができる。
そして、最後は人の思いであり、「連携した企業がスタートアップのためにどれだけ動けて、自分はそのために動く事が好き」という思いが大事である。スタートアップのために一生懸命に動く人がいないと難しいため、実業を行っている会社であれば、自社のグループ会社の中で動いてくれる人を見つけると上手くいく。
大企業は社員数が多いので、レールに縛られないアブノーマルな方を探すと意外と一杯いるため、アブノーマルな人を仲間にして自分の周りに増やしておくと、その人同士で繋がってイノベーションが生まれる。
更に、誰よりも先にマーケットを見つけてくることを意識的に行うことが必要で、イノベーションの領域は市場が未成熟、未開拓なので、その市場について知っておくことが大事である。
「勝手に自走する仕組み」
資料3枚程で事業の内容が分かるものを用意することが、自走の仕組みを作ることにおいて必要である。スタートアップは、「〇〇を行おう」と言葉で進めていくにつれて、物事が崩れてくるケースが起こる。
それは、言葉で伝えたり、あやふやな資料進めていくと、それぞれ思ってる意見が違うケースや、気付いたら自社にメリットがない状態になるケースが起こる。
皆が、最初から事業に対して同じイメージを持っていれば、資料を元に勝手に各々が自走していく。沢山の分厚い資料を作っても人に見られないため、3枚程の資料にまとめる。誰が見ても、何をするのか、物事をいつまでに行うのかが分かるように共有する必要がある。
「連携はDXの最短ルート」
スタートアップとの連携はDX(デジタルトランスフォーメーション)の最短ルートである。これまで手を出していない領域の事業を1から自社で作ると相当時間が掛かるため、既に先行して事業を進めているスタートアップがあるなら、そこを活かす事が重要である。
スタートアップは新しいイノベーションを起こし、大企業は培ったオペレーション担当する。これらを掛け合わせることで、安心安全で社会に対して実装できる。スタートアップは完全に外部から情報を運んで来るので、その情報と社内の資源を掛け合わせて、新しいビジネスを作っていく事がDXの最短ルートである。
( *DXとはデータやデジタル技術を駆使して、ビジネスに関わる全ての事柄に変革をもたらすことである。)
「顧客は新しい価値を手にできるのか」
世の中のニーズから見て、新しい価値やイノベーションは、大企業とスタートアップのどちらが生み出そうが関係ない。誰がどんな方法で新しい価値を作るのかに価値があるわけではなく、最終顧客がどんな新しい価値を手にするのかに焦点が当たっている。
スタートアップとの協業には決まったお作法はない。特に大企業になると習慣がノーマルの価値観となり、それとは違うものがアブノーマルな価値観になる。それを組み合わせると必ず衝突が起こるが、そこで生き残ったものが本物になる
大企業とスタートアップが連携してイノベーションを起こし、早いスピードを持って最終顧客に新しい価値を提供できるかが問われる時代となっている。
富士通アクセラレーターの今後の躍進に目が離せない。
なお、12月21日(月)に行われた本イベントは”見逃し配信”が行われている。
下記URLから視聴したいコンテンツ・スタートアップを選ぶことで、発表会が再度視聴できるようだ。ぜひ積極的に見逃し配信も活用したい。
<記事編集:三輪浩久 / 記事監修:戸村光>
コメントを残す