自動車関連スタートアップへの投資・支援から見る モビリティスタートアップの行方

「世界からドライバーが消える」

皆さんは『自動運転』という言葉を聞き慣れているのではないだろうか。 1769年に自動車が誕生してからこれまで、電気自動車や水素で走る自動車、ソーラーパネルを天井に搭載した太陽光発電で走る自動車など様々なエネルギーを活用した自動車が販売されてきた。 しかし、ついに人間が運転をする必要がなくなる時代が訪れつつある。

本記事では、昨今目まぐるしく新たなサービスが誕生している自動車関連市場の投資動向や既存の大手企業の自動車関連スタートアップへの投資の動きからこれからの日本の自動車スタートアップがどうなっていくのかを分析していく。また、記事の最後には国内の自動車関連スタートアップの紹介を行う。

目次

1.世界の自動車業界へのスタートアップ投資

2.国内の有名企業がスタートアップへの投資に参入

3.国内自動車関連スタートアップの紹介

世界の自動車業界へのスタートアップ投資

国内の自動車関連市場を知る前に、世界の状況を確認していきたい。 スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析するアメリカのCBInsightのデータによると、2017年の自動車関連のスタートアップへの投資額は前年比40倍の約5億ドルであった。

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    (参照:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31533410Y8A600C1000000/)

海外の自動車関連スタートアップへの投資のうち、全体の43%を占めているものは2つある。1つはクルマを道路インフラや他の車両など様々なものと結ぶ『V2X』。2つ目は車内でドライバーと情報をやり取りする『テレマティクス』。 
また、自動車部品メーカーはサイバーセキュリティーを手掛けるスタートアップ企業への投資が増えている。

こうした海外の動きを受け、日本国内の大手企業も遅れを取らないためにも自動車関連スタートアップへの投資活動をスタートさせた。

国内の有名企業がスタートアップへの投資に参入

国内の自動車企業大手といえば、皆さんご存知トヨタ自動車だろう。

トヨタのファンドとしての投資活動の始まりとしてあげられるのは、2015年11月に1号ファンドとして組成された『未来創生ファンド』。 
同ファンドからは、AIや仮想現実(VR)などの最新技術を活用し、自動運転車のOS「Autoware」の開発などに力を入れている名古屋大学発ベンチャーのティアフォー社に10億円規模の出資が行われた。*

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さらに、TAIVから課題特定型ベンチャー支援ファンドプログラムである『Call for Innovation』も2018年7月に誕生した。有望なスタートアップに約5500万〜約2億2000万円を投資するとともに、実証プロジェクトなどもとに進めていく。プログラム第一弾は、ハードウェア・ソフトウェアの技術を持つ世界中のベンチャー企業を対象として募集が行われた。

他にも、自動車大手のホンダ、日産をはじめとした多くの有名企業がスタートアップ投資・支援をスタートさせている。以下に一社ずつ紹介していきたい。

l 日産自動車・三菱自動車

2018年1月にルノー、日産自動車、三菱自動車の自動車アライアンスはオープンイノベーションを支援する企業ベンチャーキャピタルファンド『Alliance Ventures』を設立した。 
同ファンドは5年間で最大10億ドル(約1100億円)を投資目標とし、3社の協業を強化して2022年末までに年間100億ユーロ(約1兆3600億円)以上のシナジー創出を目指す「アライアンス2022」の目標達成を支えるものと位置付けられている。ルノー、日産自動車はそれぞれ40%、三菱自動車は20%を出資した。 
クルマの電動化、自動運転システム、コネクティビティ、人工知能などの新たなモビリティに焦点を当てている新興企業、技術起業家が参加するオープンイノベーションのパートナーシップを対象に最大2億ドルを投資する予定。

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l デンソー

自動車部品メーカー世界ランク2位の偉業を持つトヨタグループの株式会社デンソーは、半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスへの増資や有機ELディスプレイメーカーのJOLEDへの出資を行っている。 
研究開発のスピードを自社でまかなうのではなく、スタートアップをM&Aすることにより自動運転をはじめとした技術力を獲得していく考えだ。 
また、2018年9月には半導体設計を手掛けるアメリカカリフォルニア州のスタートアップであるシンクアイに追加出資も行う(一回目は2016年など)、スタートアップへの資本参加なども推進している。

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l 豊田合成

2019年1月に30億円規模のCVC『ベンチャー投資企画室』を設立した。 
豊田合成は、ロボットなどに用いる次世代の人工筋肉「e-Rubber」や、自動運転車において人とクルマの橋渡しとなるHMI機能を付加した「モジュール製品」などの開発を進めており、『ベンチャー投資企画室』は上記にあげたプロダクトの実用化に向けてシナジーが期待できるスタートアップへの投資を行うための機関として位置付けられている。

l ホンダ

ホンダのスタートアップとの関わりは、2000年ごろにアメリカに設置された研究開発拠点『ホンダシリコンバレーラボ(以下HSVL)』からスタートしている。2005年には、CVC活動も開始。しかしこれまでHSVLは本田技術研究所の出先機関として存在していたが、2017年4月に『ホンダR&Dイノベーションズ』に改名し、法人化。 
ホンダイノベーションズは法人化することで、研究開発のみの活動から、商品開発や生産、新たなビジネスの創造、他企業とのパートナーシップへと活動を広げることができるようになった。 
ホンダイノベーションの名の通り「オープンイノベーション」を重視しているためスタートアップ投資でお金を稼ぐVC的姿勢というよりもシナジー効果を目指すCVC寄りの支援体制をとっている。具体的には、Googleの「Android Auto」、Appleの「CarPlay」などとコラボレーションしている。

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そして、2018年12月には『ホンダ・エクセラレーター』を通じてベンチャーキャピタル4社*と協業することを発表。ベンチャーキャピタルとの協業により、世界にあるエクセラレーターの各拠点を通じて、新価値創造に向けた取り組みに対する支援活動を拡大することを目的としている。 

*未来創生ファンドについて 
スパークス・グループ株式会社を運営者とし、トヨタ自動車株式会社、株式会社三井住友銀行を加えた3社のLP出資で運営されているファンド。 
運用額は367億円と国内のVCでは有数の規模で、2年半あまりで国内外の40社以上に投資している。2018年には2号ファンドを組成した。 
また、トヨタグループからもファンドが新設されている。 トヨタ自動車の子会社であるToyota Research Institute(アメリカで人工知能等の研究開発を行う)が2017年7月にベンチャーキャピタルファンド「Toyota AI Ventures(以下TAIV)」を設立した。 
TAIVは、人工知能やロボティクス、自動運転、データ・クラウド技術の4分野においてスタートアップの発掘と投資を行っている1億ドルのファンドである。
TAVのHPによると、これまでにコンピュータビジョンによる走行データ収集・予測を行う米Nauto社をはじめ、AIを活用した革新的なイメージングレーダーの開発を手掛ける米Metawave社、ロボティクス開発を行うイスラエルのIntuition Robotics社、自動運転車やドローン技術向けの周辺地図情報・位置情報生成アルゴリズムを開発する英SLAMcore社など世界各地の16社への投資を実行している。

**ホンダ・エクセラレーターとは、2015年からホンダとの協業の場やアドバイスを提供し試作のための資金の一部援助などを行うことでスタートアップを支援。
スタートアップとの協業を通じて、ホンダの顧客体験向上をもたらすモビリティー関連商品やサービスを創造している。

***ベンチャーキャピタル4社は、パリに本社のある360キャピタル・パートナーズ、バルト地方で最大の投資会社であるBaltCap社と、日本政府も拠出している投資会社JBIC IG社両社が新たに設立したベンチャーキャピタルのジェイビー・ノルディック・ベンチャーズ、アメリカに本社を置くエス・オー・エス・ヴイ、中国のユンチ・パートナーズ。



国内でも自動車関連スタートアップへの投資額は徐々に増えている。半導体やモジュール製品などが多くを占めていたが、トヨタを筆頭に自動運転技術に必須であるAI部門への投資が近年では目立つ。 
日本のユニコーンスタートアップの第1位に2年連続で輝いているPreferred Networks社。トヨタはPreferred Networksに2017年、105億円もの出資を行っている。また、2017年にマザーズ上場を果たしたPKSHA Technologyと自動運転やコネクテッドカーなどの研究開発で連携を図っている。(もちろん、資本関係もある) 

ドライバー無しの自動運転を可能とするためには、レベル5までに技術をあげる必要があり、自動運転に必要な画像認識や深層強化学習といった技術はAIが活用されている。今後さらにAI領域のスタートアップは増えるだろう。 
また、市場的にも大手企業などの参入障壁も少なく比較的AIの知識があれば可能である。ただ、問題はAI技術者が日本で枯渇している点だ。AIに強い人材がいないわけではないが、海外のそれに比べるとまだまだ数は少ない。そのため、スタートアップとして始めようにも知識と技術がないため、結局既存企業に負けてしまう。
国内のみならず海外の動向を追い、AI技術者を日本に引っ張ってくるかあるいは海外で法人化し日本に逆輸入する方法もありだろう

一方、既存企業は今後AIがくる中でどうしていけばいいのか。AI技術者を社内で育成するのも一つの手だが、既存企業で資本があるならば俄然M&Aをして外部から知識と人材を吸収するのが最良の選択である。 

AIをはじめとしたテクノロジーにおいては変化が早く、時間をかけているとすぐに他企業に先を越されてしまう。そのため、従来の日本文化的な「じっくり社内で」という姿勢は捨てて、スタートアップや海外企業を積極的にM&Aしていく必要があるだろう。
ただ、一つ気をつけるべき点は、M&Aをむやみやたらにするのではなく、相互企業の関係性を事前に調べてから見つけるべきだ。(そのためにあるのが、HackJPNのdatabase.ioである。) 

M&Aをするために、M&A担当者は日頃からアンテナを立てて情報を得ようとしている。しかし、ことAIに関しては大手企業よりもスタートアップにいる人の方が詳しいということも普通にあり得る話である。AIの勉強会やスタートアップが集まるイベントに顔を出してオフラインでのつながりを作ることもM&A成功の鍵ではないだろうか。

さて、そんな白熱する自動車関連スタートアップであるが、国内にも有望なスタートアップが存在している。今回は、筆者が特にお勧めしたい自動車関連スタートアップを6社紹介する。

国内自動車関連スタートアップの紹介

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